■(株)イノベーション アソシエイツ代表取締役  井口不二男氏と語る


         Yoshifumi Takahashi   ×   Fujio Iguchi


◆◆◆ Chapter 2 TALK ◆◆◆


1.変革の過程で、なにが起きてくるか

井口 今度、経営品質賞の認証制度が始まり、神戸で2社、初めて中小企業から応募しようとがんばっているんですよ。

高橋 興和サインの応募は、3年くらい先だと思っています。

井口 そう、3年ね。

高橋 僕は賞をとること自体を目的にしてなくて、賞を目指していく発展のプロセスで、会社に「筋力」がついてくることが大事だと思うんです。
本当の意味でお客様価値を創れる、強い会社にしていくために。


井口 でもね。その高みに登っていくあいだに、自分の体力が変わってきて、また違う難しさが出てくることもあるんですよ。

たとえばフィギアの安藤美姫が、昔は4回転ジャンプを飛べたのに、体が変わると飛べなくなる。
先ほど話に出たスーパーホテルも、私が関わり始めた時が30店舗で、今は100店舗になっています。けれど、50店舗を越えたあたりから、当初とは違う課題が出てきたわけですね。


高橋 僕としては会社の企業体を大きくするつもりはさらさらなくて、このままの規模で、仕事のクオリティーを高めていきたいと思っている。
たとえば今、A級ランクの仕事をしているなら、S級ランクの仕事をしていく。


井口 そう。だから仕事の質が上がってくると、客層が変わってくる。ホンモノを求める質のいいお客様がたくさん集まってきたときに、今度はマネジメントの質も変わってくる。
成長の過程においては、同一平面を登り続けるわけではないんです。

2.教育の場とはなにか


興和サイン勉強会リポート
高橋 たぶん、質のレベルが上がって、新しい領域に入ったとき、その場についていける人も、もしかしたらついていけなくなる人もいるかもしれない。今まで見たこともない世界に踏み込むわけですから。
でも、会社は一つの共同体である以上、だれか欠けたら困るわけです。そこで僕にできるのは、教育の場を提供するしかないわけです。
今、先生にみていただいている勉強会は教育の場であって、僕の中では「社会人大学院」という位置づけなんですよ。

教育って実はとても大事で、たとえば30年生きてきた人は、その生きてきた経験のフィルターを通してしか、ものを見られません。けれども、質のいい教育を受けることによって、もしかしたら、もっと違う尺度で多面的に見ることができるようになるかもしれない。そして、その中で、ごく小さな成功体験をいくつも積んでいくうちに、「がんばってみよう」と思うきっかけになるかもしれない。

ということは、その中でいっしょに成長し、自分の力量をつけていけたなら、オーバーハングしているような壁にぶち当たっても、それを乗り越えられて、自分の目で新しい景色を見られるかもしれない…。
提供しているのは、そういう場なんですよ。

井口 親が子供にできることは、その教育の機会を与えることだけですね。

高橋 質のいい教育って、要は、自分で考えることのできる人をつくることだと思うんです。人から言われたことだけを唯々諾々とやるのではなく、自分のフィルターを通してきちんとものごとを判断し、創意工夫していける。
僕らのやりたいのはエンタメの看板、それも知的クリエイティブを目指しているわけですから。

井口 そうですね。そしてそれは、直接制作に関わる部署だけのことではなく、どこの部署の人であっても自分の仕事を創意工夫していくことができるんですよ。

お客様にモノやサービスを提供するときは、どこの部署がエラいという序列があるわけではありません。制作も、営業も、業務も、配送も、それぞれが協同していって、ひとつの価値を手渡していくことができるんです。

3.エンタメ看板は「マッチ売りの少女」

「その街の人になにが喜ばれるか、知恵を絞ったから、アイデアが生まれてきたんです」
井口 ところで「エンタメ系」では、地域に根ざして実力を発揮している企業が多いんです。

「神戸スイーツタクシー」で有名な近畿タクシーは、阪神大震災で大きな被害を受けた長田地区に本社があるんです。

震災後、老人と少数の若者しか残らなかった長田でやっていくために、近畿タクシーは知恵を絞った。それには、この街の人たちがいちばん喜ぶタクシーをつくるしかないと。

そこで、「エコ福祉タクシー」や「塾の送り迎えタクシー」、「海のタクシー」など、街の人たちに便利で楽しいタクシーをどんどんつくってしまったんです。
するとその延長線上で、「お花見タクシー」や、神戸の有名スイーツ店を巡る「スイーツタクシー」などが生まれ、外からもお客を呼べるようになった。

利用して楽しい、人に喜ばれるというのは、すごくいいですよね。

高橋 やはり今のような不況の時代であれば特に、「マッチ売りの少女」が必要なんですよ。世の中を明るくし、楽しくしてくれるようなね。

看板でもそうです。疲弊して薄暗くなっているような街であっても、そこをを明るく照らし、楽しくしてくれるもの──。

だからエンタメ系だって、奇抜で楽しくても、下品であったり、人が見て不快であってはいけないんです。人の「快」の感覚に照らし合わせて美しく、しかもどういう形、色、雰囲気であればその地域に同化していくかまでを考えていく必要があります。

「規格外の発想と、ロジカルな裏付けがあって、本当におもしろいアイデアは生きるんです」

そのための裏付けとして、実際に大学に委託研究をお願いし、学術的な検証もしているんです。たとえば、人の記憶に残りやすいのは平面的なものか、立体的なものか。

「美」は主観的なものですけど、人が見たときに美しいと脳が判断するものは厳然とあるわけで、それをはたして定量化できるかどうかなど、さまざまなアプローチを進めています。

思考のフレームワークの外にある、斬新で大胆なデザインにも、そうしたロジカルな裏付けがあって、はじめて本当におもしろいアイデアは生きてくる。そう、僕は考えているんです。


井口 そうですね。
やはり基礎研究というのは、よりよい品質を創るうえで欠かすことのできない部分です。先ほどインタビューで話に出たスーパーホテルでは、「ぐっすり研究所」というのをつくっていて、枕一つにしても、高さや堅さ・柔らかさ、素材などをお客様が選べるようにしています。
日本では、特に、サービス業の分野では、こうした基礎研究がまだまだ不十分ですが…。

ところで「美」というのは、目的になるんです。
「真・善・美」は、言葉で定義することができません。美しいってどういうこと?と問われたとき、「この花が美しい」とか、「醜くないもの」と逆の概念の否定形では言えます。真は「偽でないもの」、善は「悪ではないもの」とは言えますが、それ自体をすっきり簡明に説明できません。
しかし、海に沈む夕陽を見てだれもが美しいと感じるように、真・善・美は、みな共通して、人として持っている要素なんですよ。

これは究極の目的になりうることなんです。
「お金をもうける」ことは手段であって、目的にはなり得ません。
「人の役にたつ善い会社にしたい」、「人に喜ばれる美しいものを提供したい」というのが目的で、お金はそれを実現する手段なんですよ。

会社の目的を見直したときに、これはなかなか大切なことであると私は思っています。

4.「1年待っても、興和サインに!」

高橋 まあ、先ほど先生がおっしゃっていたように、勉強会のほうは土づくりの段階です。人に喜んでもらえる、明るく楽しい価値あるものを創る。それをしていくためには、何をどうしたらいいのか、一人ひとりの中の物差しを、しっかりつくっていければと思っています。

井口 会社だから、何のために「自分たちは存在するのか」ということが、はっきりしていないとダメですよね。
自分達のやりたい領域がはっきりしている。それがあるから、苦しいことも乗り越えられる。
それに、私がこうやって関わってしまったのは、興和サインのやろうとしていることに、根本のところで共感があるからなんです。
もう、一蓮托生ですよ。

だから、会社をこれだけ大きくするとか、売り上げをいくらにするという数字の話じゃないんです。
興和サインの名前を出した時に「ああ、あの興和サイン!」と、みんなが思う会社になってくれるのが、いちばんうれしい。
きっと、そんな誇りに思える会社になってくれると思っています。


高橋 「会社は小ツブのままでいい」
井口 「その代わり光ってないとダメですよ。いちばん輝いてね!」
高橋 「僕の理想では、“興和サインの仕事は1年待ち"みたいな、ね」
井口 「1年待っても、看板なら興和サインにやってほしい!
そういう価値をつくっていくことが大事です」

 

Chapter1  Interview へ戻る